こんにちは、田中です。
最近、税理士に「法人にした方が節税になる」って言われて興味を持ち始めたり、子供にどう不動産を引き継ぐかを考え始めたり、なんてことはありませんか。
法人化が適しているのは、例えばこんなケース
- 高額な収益不動産を複数保有している
- 子供へ分割相続したいが、分けにくい資産が多い
- 相続税評価を少しでも圧縮したい
- 法人の利益を活かしてキャッシュを蓄積していきたい
- 将来、法人ごと第三者に承継したり売却したりする可能性がある
法人化の判断は、実に収益規模と管理コストのバランスで見ます。一般的な目安としては、年間の収入が1,000万円以上または不動産の評価額が1億円以上ある場合は、法人化による節税や管理メリットが見込めるケースが多いと言われます。ただし、資産の収益性が低い場合や、移転コスト(税金・登記費用)が大きすぎる場合は、逆にデメリットになる可能性もあるため個別の試算が必要です。
一般的に、個人の方が賃貸不動産を所有・管理するパターンはこちら
1. 個人事業主(賃貸)
【取得時】
- 所得区分:不動産所得の元資産
- 税金の種類:不動産取得税・登録免許税・印紙税
- 費用計上の考え方:建物は資産計上し、減価償却費として毎年費用化
【保有時】
- 所得区分:不動産所得(総合課税)
- 税金の種類:所得税・住民税・固定資産税
- 費用計上の考え方:家賃収入 − 必要経費(減価償却費、修繕費、固定資産税等)=不動産所得
【売却時】
- 所得区分:譲渡所得(分離課税)
- 税金の種類:譲渡所得税
- 費用計上の考え方:建物は取得原価−累計の減価償却費=譲渡所得(課税対象)
2. 法人(賃貸)
【取得時】
- 所得区分:法人所得の元資産
- 税金の種類:不動産取得税・登録免許税・印紙税
- 費用計上の考え方:建物は資産計上し、減価償却費で毎年費用化
【保有時】
- 所得区分:法人所得(事業収益)
- 税金の種類:法人税・地方法人税・事業税・固定資産税
- 費用計上の考え方:家賃収入 − 必要経費(減価償却費・修繕費・固定資産税・管理費等)= 利益(課税所得)
【売却時】
- 所得区分:法人所得(売却益も法人所得に含まれる)
- 税金の種類:法人税・地方法人税・事業税等
- 費用計上の考え方:売却価格 − 帳簿価額(簿価)− 譲渡にかかる費用 = 売却益(課税対象)
ポイント
- 自宅用(居住用):居住用不動産は「生活用品」に該当するため、原則として経費計上は行いません。ただし、将来売却する際には、あたかも減価償却を行っていたかのように取得費が調整され、譲渡益が算出されます。この譲渡益に対して課税されます。
- 個人事業主(賃貸):賃貸用不動産から得られる収入は、原則『不動産所得』として課税されます。ただし、5棟10室基準を満たすなど事業的規模の場合は、青色申告特別控除(65万円)など、事業所得に準じた取り扱いが認められます。収入から必要経費(減価償却費など)を差し引いた所得に対して、所得税の累進課税が適用されます。
- 法人(賃貸):賃貸収入はすべて法人所得として扱われます。法人会計基準に基づき、適切に費用計上を行い、その課税所得に対して法人税が課されます。
不動産法人化の2パターン:管理型 vs 所有型
不動産法人化を検討する際、まずは「管理型法人」としてスタートするケースが一般的です。この場合、家賃収入のみを法人に付け替え、所有権自体は個人のまま維持します。法人に支払う管理料や役員報酬、法人経費を活用することで、一定の節税効果が見込まれます。
その後、所得・資産規模の拡大や後継者の状況を踏まえて、「所有型法人」への移行を検討します。所有権を法人に移す際は、「売買」「贈与」「現物出資」といった手法の中から、それぞれのメリット・デメリットを比較検討し、慎重に設計する必要があります。
なお、「節税のみを目的とした法人化」は、長期的には逆効果となるリスクもあるため注意が必要です。法人化を検討する際は、「事業承継」「財産分割」「相続税評価」の三点をセットで捉えることが重要です。
1. 【法人化(事業型:法人が不動産を所有)】
法人が不動産を購入・所有し、賃貸収入などを法人で得る方式。いわゆる「所有型」。オーナー法人として運営・管理・賃貸収入等を得る方法。相続税・承継スキームの構築に。ただし、導入の判断には 資産内容・将来計画・家族構成がカギ。
メリット
- 所得分散:法人で役員報酬を支給し、家族へ所得分散できる(節税)。
- 経費化の幅が広い:車両・携帯・事務所・出張費など、法人経費として計上しやすい。
- 法人税の方が税率が低い:個人の高額所得者(所得税45%+住民税10%)よりも法人税(実効税率約30%以下)の方が低くなるケースあり。
- 相続対策に活用できる:株式を贈与・相続することで、資産の移転がしやすい。
デメリット・注意点
- 移転時の税負担:個人→法人への不動産移転時に「登録免許税」「不動産取得税」「譲渡所得税」などが発生。
- 法人設立・維持コスト:登記、会計、税理士報酬などの運営コスト。
- 損益通算できない:法人の赤字を他の所得と通算できない(個人の青色申告のようには使えない)。
向いている人
- 課税所得が900万円超(実効税率が30%以上)で税負担が重い。
- 家族に所得分散したい。
- 節税意識が高く、税理士との連携が取れる人。
2. 【法人化(資産管理会社方式)】
個人が所有する不動産を法人が借り上げる、または個人から資産を移転して管理する方式。節税目的で設立されることが多い。共有名義を避け、管理の一元化が図れる。相続時に「不動産の共有による争い」が発生しにくい。
メリット
- 相続税評価を下げる:法人が不動産を保有すると、株価評価により時価より安く相続可能。
- 株式による資産移転:贈与税・相続税の負担を抑えつつ、事業承継しやすい。
- 法人化による節税:法人スキームを活用し、所得分散や経費計上が可能。
- 柔軟な財産管理:法人名義で一元管理できる。
デメリット・注意点
- 法人の意思決定が必要:個人と違い、自由に売買・処分できない。
- 株式の贈与・相続タイミングに注意:株価が高い時期に贈与すると贈与税が高くなる。
向いている人
- 不動産・金融資産で3億円以上の資産がある。
- 子や孫に資産をスムーズに引き継ぎたい。
- 相続税対策・事業承継を強く意識している。
3. 【管理会社方式(管理業務法人)】
個人が所有する不動産の管理業務だけを法人が受託し、報酬を得る方式。いわゆる「管理型」。
メリット
- 所得分散ができる:管理業務の報酬として法人に収益を移し、役員報酬として家族へ分配。
- 不動産の移転不要:個人のまま所有できるため、移転税負担がない。
- 法人として経費処理可能:事務所家賃、通信費などが経費化できる。
デメリット・注意点
- 管理業務の実体が必要:実態がないと否認される(名ばかり管理会社はNG)。
- 報酬設定に限度:相場に比べて高すぎる報酬設定は税務リスク。
- 二重経理・帳簿が煩雑:個人と法人で経理・税務が複雑になる。
向いている人
- 現時点で不動産を法人に移したくない。
- 比較的所得が高く、家族への所得分散で節税したい。
- 小規模でも節税意識があり、実務対応できる体制がある。
法人化が有利かどうかの判断:事例紹介
事例①:兄弟が複数いて、親が大規模賃貸を保有(資産10億円超)
- 相続時、現物不動産を共有で分けると揉めるリスク大
- 生前に不動産を法人に移し、株式で持分を分ける
- 株式評価(類似業種比準など)により、評価圧縮が可能
- 株主議決権・遺留分への配慮も事前に設計できる
→ 所有型法人化が有効 【注意】移転時の譲渡税コストに耐えられるかが判断基準
事例②:不動産は親名義、管理業務を子が法人で引き受けている
- 節税しつつ、法人で給与所得をつくり、子の生活を安定化
- 修繕・入退去管理も法人が担い、実務を法人に集約
- 所有権は親のままなので、相続対策とは直接関係しないが
→ 将来、法人に出資で不動産を移すプランも検討中
→ 管理型法人が現実的で有効 【注意】法人に報酬を適切に出すスキーム(税務署チェックあり)
事例③:法人所有だが、不動産評価が上がり、株価が高騰してしまった
- 土地価格の高騰で、含み益が株価評価に反映
- 評価圧縮のつもりが、かえって自社株評価が高くなり失敗
- 法人の「純資産+利益×倍率」による評価ロジックが原因
- 対応策:定期的な役員報酬増額・退職金積立、持株分散など
→ 運用後も「評価モニタリング」が必須
既に法人化している場合【後継者問題】
法人化済み=相続対策が終わっている…ではありません。
むしろ【後継者がいない/決まっていない】場合、法人化のメリットが裏目に出ることもあります。後継者の明確化と、早期の「経営移譲シナリオ」の検討(段階的に役職を移していくなど)が必要になります。
主な注意点
- 株式の承継 「誰が株を持つか=誰が経営権を持つか」。後継者候補がいないと、社長の死亡=機能停止になる危険
- 議決権の集中 株式が相続で分散すると「誰が意思決定するのか」が不明確になる。→株主間トラブル多発
- 代表権の空白 代表者死亡後、登記上の代表がいないと銀行口座や契約関係が凍結されることも
- 自社株評価 特に収益不動産を持つ会社は、自社株の評価が跳ね上がりやすく、相続税が想定以上になることも
「複数人で資産管理する」家族信託 vs 法人化の違い
自分が元気なうちは、不動産やお金の管理を自分で行えますが、将来的に認知症などで判断能力が低下した場合、財産管理が難しくなることが心配されます。こうした不安に備える手段の一つが「家族信託」です。家族信託とは、ある人(委託者)が、自分の財産を信頼できる家族など(受託者)に託し、その財産を特定の目的のもとに管理・運用・処分してもらう仕組みです。
家族信託と法人化(資産管理会社)は、いずれも家族が関与して財産を管理する仕組みですが、それぞれの役割や目的には大きな違いがあります。
家族信託
- 財産の所有者 委託者(名義上:受託者)
- 管理する人 受託者(家族など)
- 相続・分割 信託契約でコントロール可能
- 課税関係 所有者個人に帰属
- 会計・手間 比較的シンプル
- 主な目的 柔軟な財産管理・承継
法人化(資産管理会社方式)
- 財産の所有者 法人(会社の所有物)
- 管理する人 代表取締役など
- 相続・分割 株式の分割次第
- 課税関係 法人税・法人所得になる
- 会計・手間 帳簿、決算、税理士必須
- 主な目的 節税・資産運用・所得分散
ざっくり言えば…
- 家族信託は「柔らかいバトンリレー」:財産は動かさず、権利の使い方や承継順をコントロール
- 法人化は「本気の事業体制」:節税・資産運用・所得分散・承継などを“仕組み”で実行
不動産の法人化は、節税や相続、資産管理の面で効果が期待できる有効な方法です。ただし、その効果をしっかり得るには、目的に合った設計と正しい手続きが大切です。目先の節税だけでなく、将来を見据えた資産づくりの一環として考えていきましょう。