「借地+自宅建築 → 賃貸化 → 相続」の流れが都市部における典型パターン
こんにちは、田中です。
なぜ、東京(特に都心部)に借地が多いのだろう?と思ったことはありませんか。これは、歴史的・制度的・経済的な理由が複合的に絡んでいると言われています。
東京の都心部(山手線内側や旧武家地など)では、明治以降の旧華族・地主階層が土地を広く所有しており、他人に「貸す」形で街が発展してきました。自分では住まず、「土地は貸すもの、建物は借主が建てる」が一般的でした。
昭和初期から借地法(旧法)により、借地人は「半永久的に更新・使用できる」権利を有し、地主側は簡単に契約を終了できず、その結果、地主は売却よりも「貸したまま」にすることに。
戦後の東京は住宅不足と急激な人口流入(地方からの上京)が重なり、「宅地を貸して家を建ててもらう」ことが都市整備の即効策となり、持ち家よりも「借地+自宅建築」が主流となります。
高度経済成長期からバブル期にかけて、東京の地価は爆発的に上昇します。地主にとって「貸した方が得」「売ると税金が高すぎる」という状況が続き、借地契約で土地を保持し続ける方が合理的と考えます。
「貸しておけば、土地の評価が下がる(貸家建付地評価)」ことで相続税を圧縮できるメリットがあるため、代々「借地のまま貸し続ける」状態が続き、現在に至ります。
やはり「旧借地法」の影響は大きい
- 旧借地法(大正10年制定・平成4年まで適用)は、借地人保護が非常に強い
- 借地契約が終了しても、建物がある限りは「正当事由」がなければ地主は契約終了できない
- 実質的に「土地を半永久的に使われる」状態に
そもそも借地権とは?
- 他人の土地を借りて、その上に建物を建てる権利
- 借地借家法に基づき、一定の保護がある
- 通常、借地権も財産的価値があり、相続や贈与の対象となる
【1】相続時の借地権の取扱い
相続税の課税対象
- 借地権も財産として評価され、相続税の対象
- 借地権の評価は、路線価方式によって算定(借地権割合 × 更地価格)
借地権者が死亡し、相続人が使用を継続する場合
- 地主の承諾なしで借地権の相続は可能
- 通常は地主への通知のみでOK
【2】贈与時の借地権の取扱い
贈与税の課税対象
- 借地権の贈与も課税対象
- 評価は相続時と同様に「路線価方式」
地主が承諾していない贈与
- 無償譲渡に地主の承諾が必要
- 承諾なしだと「無効」または「借地契約違反」とされる恐れあり
実務上、多く見られる典型的な相続パターンの一つ「親が借地権付き土地に自宅を建てて居住→後年賃貸化→相続発生」というケース
パターン概要
- 親が借地権付きの土地に建物を所有
- 高齢や引っ越し等により、自宅を他人に賃貸
- 親が他所で生活(老人ホームなど)
- 親が死亡
- 子が借地権+建物を相続、すでに家を所有しているので自分が住む予定は無し
- 賃借人はそのまま入居継続中(賃貸物件として管理)
このパターンが「多い」とされる理由
- 借地物件が多いエリアの特性・・・特に東京・大阪などの都市部では、戦後からの借地利用が多く、建物は所有、土地は非所有のケースが多い
- 親の高齢化と住み替え・・・親が高齢になり、施設や子の家などに住み替えし、自宅は賃貸として活用する傾向が増加
- 不動産資産を活かした相続・・・建物+借地権は収益資産としても相続対策に利用されやすい
- 地主も現状維持を望む傾向・・・地主としては、借地契約が継続され、地代が入り、関係が安定している方が都合が良いケースが多い
このケースにおける相続・税務の注意点
- 相続税評価・・・借地権(路線価方式)+ 建物(固定資産税評価額)で評価され、相続税がかかる場合あり
- 小規模宅地等の特例・・・賃貸中の建物の敷地(貸付事業用宅地)として50%評価減の適用対象になり得る(要件あり)
- 賃貸借契約の承継・・・建物賃借人の契約は、基本的に相続人が承継(契約は継続される)
- 借地権の承継・・・地主への通知は必要、名義変更には承諾料や更新料が必要なこともある
- 贈与で引き継がれていた場合・・・地主の承諾が無いと、トラブルになるケースもある(遡って問題視されることも)
まとめ
- 地主との関係は相続開始前から意識しておくべき
- 名義変更時に地主から「承諾料」や「更新料」を請求されることがある(契約書次第)
- 相続後も継続的な賃貸経営が前提なら、賃貸収入の申告や修繕義務なども引き継ぐ必要あり
- 将来的に底地を買い取る選択肢も検討に入れるべき(共有・整理の観点から)
借地権ありの土地に関する査定は、「依頼者が誰か(借地人 or 地主)」によって視点も評価目的も大きく異なります。
【借地人】が依頼者の場合
借地人の主な目的
- 借地権の売却・譲渡(第三者や地主に)
- 借地権の相続・贈与の参考
- 借地権付き建物の売却 or 賃貸
- 地主との交渉材料(譲渡承諾料/建替承諾料など)
査定の基本的な考え方(借地権価格)
借地権価格 = 更地価格 × 借地権割合
【例】
更地価格:1億円
借地権割合:60%
→ 借地権価格=6,000万円
注意点(借地人側)
- 地主の譲渡承諾料が必要になる 査定時には「承諾料の控除後手残り」を見積もる
- 借地権割合が地域・立地で変動 「実務慣行(実取引)」も加味すべき(理論値より乖離する場合あり)
- 建替・増改築承諾料も想定される 交渉時の費用感や相場を理解し事前に試算しておく
- 地主に買い取ってもらう場合 「底地価格+α」程度での売却も現実的シナリオとして想定
【地主】が依頼者の場合
地主の主な目的
- 借地権の買い取り交渉(地主側から借地権人に買戻し)
- 底地売却を検討している
- 相続税対策(貸宅地評価)
- 他の用途(駐車場化・再開発)を検討中
査定の基本的な考え方(底地価格)
底地価格 = 更地価格 ×(1 - 借地権割合)
【例】
更地価格:1億円
借地権割合:60%
→ 底地価格=4,000万円
注意点(地主側)
- 借地契約の終了は非常に困難(正当事由が必要) 契約継続前提での評価が必要(更地評価は意味がない)
- 借地人への底地売却は高く売れにくい 底地だけ第三者に売却しても、借地人が反発・譲渡承諾を拒否する場合あり
- 実務上の底地取引価格は理論値より低い 現実には「30~40%割引」された額で取引されることも多い
- 相続税評価では「貸宅地評価」になる 相続目的の場合、相続税評価額≠時価となるため、別途注意が必要
借地人・地主に共通する注意点
- 借地契約書の有無と内容が査定に直結する
- 「旧借地法」か「新借地借家法」かで大きく評価が変わる
- 更地価格と借地権割合は机上だけでなく、実務相場や地域の実態も踏まえて判断
- 建物が賃貸中・老朽化・未登記の場合も加味が必要
近年では、借地権と底地をまとめて「一括売却」するケースが増えてきています。これは、借地権と底地のそれぞれを個別に売却するよりも、双方の権利関係を整理したうえで一体的に売却する方が、買い手にとっても扱いやすく、結果的に高値での売却が見込めるからです。また、借地人と地主双方にとっても、将来的なトラブル回避や権利関係の簡素化といったメリットがあります。
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