不動産投資は個人所有と法人所有どっちが得? ~税金とキャッシュフローで比較~
こんにちは、田中 です。
不動産投資を始めるとき、多くの大家さんが迷うのが「個人で持つか、法人で持つか」という問題です。
今回は、個人と法人の基本的な違いや税金・家賃収入(インカムゲイン)・売却益(キャピタルゲイン)まで含めて比較してみたいと思います。
個人と法人の基本的な違い
- 税率・課税所得の考え方
- 経費や損金計上の違い
- 青色申告の区分や控除
個人
- 所得税:累進課税(5~45%) ※他の所得があれば合算する
- 売却益:分離課税(20.315%)
- 経費計上:基本的に必要経費のみ
- 青色申告: 開業届+青色申告承認申請書 で控除(10万~65万)
- 損失繰越:青色申告で3年間
法人
- 所得税:法人税固定(23~30%程度)
- 売却益:家賃収入と合算して課税
- 経費計上:損金として計上できる範囲が広い
- 青色申告:個人のような控除(10万~65万)は無し、ただし、以下のようなメリットあり
- 欠損金を繰越控除できる
- 欠損金の繰り戻しで還付してもらえる
- 少額減価償却資産を一括で経費計上できる
- 法人税額控除制度を適用できる
個人は所得に応じて税率が変わる累進課税が使われます。一方、法人は固定税率で経費調整の幅が広いのがメリットです。売却益の課税方法も異なり、高額売却の場合は有利不利が変わってきます。
不動産投資における「利益」と「キャッシュフロー」の違いを整理する
不動産投資の分析をするときに混乱しやすいのが、利益とキャッシュフロー(CF)の違いです。
特に「税引後CF」と「手残りCF」をごっちゃにしてしまうと、実際の投資判断を誤ることになりかねません。
課税所得の計算イメージ(区分マンション1K想定)
個人の場合
- 家賃収入 1,000万円
- - 経費 200万円
- - 借入利息 267万円
- - 減価償却費 400万円
- = 不動産所得 133万円
- + その他所得(給与など) 600万円
- = 課税所得 733万円
- ※青色申告控除 10万~65万円が適用できればさらに減少します。
法人の場合
- 家賃収入 1,000万円
- - 経費 200万円
- - 借入利息 267万円
- - 減価償却費 400万円
- = 課税所得 133万円
- ※同様の条件で計算すると、課税所得は133万円ですが、法人は経費計上できる範囲が広いためより多くの費用を損金に計上できる可能性があります。
キャッシュフローの種類
① 税引前の手残りCF(借入返済後・税金考慮前)
税引前の手残りCF = 年間総収入 −経費( 固都税・管理費・広告費・修繕費等 ) − 借入返済(利息+元本)
- 利息・元本ともに、お金が出ていくから差し引く
- 税金はまだ考慮しない
- 毎年どれだけ現金が残るかを直感的に把握できる指標
② 税引前利益(=課税所得)
税引前利益=年間総収入-経費( 固都税・管理費・広告費・修繕費など )-借入利息-減価償却費
- 減価償却は現金支出を伴わないが、税金を圧縮する効果あり
- ※借入元本返済は含みません。
③ 税引後利益(税金考慮CF)
税引後利益 =税引前利益-所得税・住民税・事業税( 法人税・法人住民税・法人事業税)
- 税務上の仕組みを反映したCF
- 減価償却は現金支出を伴わないが、税金を圧縮する効果あり
※ 税金の計算式(個人・法人共通の考え方)
税額 = (年間総収入 − 経費 − 借入利息 − 減価償却費)× 税率
- 課税対象は「利益ベース」で計算
- 個人:所得税・住民税(累進課税)
- 法人:法人税(固定率)
- 元本返済は経費ではないので税額には影響しない
④ 実際の手残りCF(ローンサービス後CF/オーナー目線)
手残りCF = 税引後利益 − 借入元本 + 減価償却費
- 投資家が自由に使える現金
- 資金繰りや生活資金を考える時に重要な指標
IRRとは?
IRR(アイアールアール)とは、「Internal Rate of Return」(内部収益率)の略で、ざっくり説明すると、お金の時間的な価値を考慮して計算する利回りのことです。投資の意思決定を行う際の重要な判断基準のひとつです。
IRR(内部収益率)とは、「投資したお金が、どれくらいの年利で増えて戻ってくるか?」を表す指標です。時間の経過とともに変わるお金の価値(時間価値)も加味して、キャッシュフローの全体像から“平均的な利回り”を逆算するようなイメージです。
IRRは2つに分けて使われることがあります。
- BTIRR(税引前IRR)・・・税金を考慮しないで計算したIRR。投資そのものの効率を見る指標。事業の「素の実力」を見る。
- ATIRR(税引後IRR)・・・実際に税金を引いた後の、自分の手元に残るお金ベースのIRR。投資家の実質的なもうけを見る。
シミュレーション例(簡易)
前提条件
- 物件価格:3,000万円(内訳:土地1,680万円、建物1,320万円)
- 自己資金:600万円
- 借入:2,400万円、金利2%、期間30年(元利均等) →年間返済 約106.5万円(初年度:利息 約47.5万円/元本 約59万円)
- 家賃収入:100万円/年(経費考慮せず、NOIベース)
- 減価償却費:60万円/年(木造アパート・法定耐用年数22年と想定)
- 売却価格:3,000万円(15年後想定)
年間キャッシュフローと利益の考え方
- 税引前キャッシュフロー(BTCF:借入返済後の現金ベース)
家賃収入100万円 − 借入返済106.5万円 ≒ ▲6.5万円/年
借入返済後の手残り。税金は未考慮。
- 税引前利益(課税所得ベース)
家賃収入100万円 − 減価償却60万円 − 借入利息47.5万円
≒ ▲7.5万円/年(赤字スタート)
元本返済は経費にならないが、減価償却で課税所得を圧縮できる。
個人所有(所得税+住民税:30%想定)
- 保有中:
15年間は「ほぼトントン〜ややマイナスの手残り」だが、
減価償却900万円(60万×15年)で課税所得を大きく圧縮。
- 税引後キャッシュフロー累計(保有期間中):約▲100万円(ほぼゼロ~ややマイナス)
- 売却時(15年後):
- 取得価額3,000万 − 減価償却累計900万 = 簿価2,100万
- 売却額3,000万 − 簿価2,100万 = 譲渡益900万
- 譲渡税20.315% ≒ 180万円
- 残債1,380万円を返済後 → 手残り ≒ 1,340万円
法人所有(法人税率30%想定)
- 保有中:
課税所得に対して法人税30%課税。減価償却の効果はあるが、個人より相対的に効果は小さい。
税引後キャッシュフロー累計 ≒ ほぼゼロ〜ややマイナス(▲120万程度)。
- 売却時:
譲渡益900万円に法人税30% ≒ 270万円課税。
残債返済後の手残り ≒ 1,230万円。
IRRの見方(BTIRR vs ATIRR)
- BTIRR(税引前IRR)
税金を考慮せず、投資効率そのものを測る指標。
今回のケース:
- 個人 ≒ 6.1%
- 法人 ≒ 5.6%
- ATIRR(税引後IRR)
税金を考慮した「実際の手取りベース」の利回り。
今回のケース:
- 個人 ≒ 5.3%
- 法人 ≒ 4.1%
まとめ(15年累計)
- 個人所有:
税引後累計CF ≒ ▲100万円
最終手残り ≒ 1,340万円
ATIRR ≒ 5.3%
- 法人所有:
税引後累計CF ≒ ▲120万円
最終手残り ≒ 1,230万円
ATIRR ≒ 4.1%
※数字は概算です。実際には、経費・仲介手数料・登記費用・消費税(建物部分)などでさらに調整が必要です。
共通する経費
- 減価償却費:建物部分のみ対象。個人・法人どちらでも同じ耐用年数で計算。
- 借入利息:融資に対する利息部分も共通。元本は経費にならない。
個人で認められる経費の例
- 固定資産税・都市計画税
- 管理費・修繕費
- 火災保険料
- 仲介手数料・登記費用(取得時のみ)
管理費・修繕費は家賃総額の10~15%程度でざっくり見ておくと現実的です。 個人は、必要経費として認められるものに制限があるので、経費の幅は法人より狭いです。
法人で認められる経費の例
- 上記個人の経費すべて
- 社長・家族従業員の給与
- 法人保険料(生命保険・損害保険)
- 接待交際費(一定上限あり)
- 事務所家賃や通信費(自宅兼事務所の場合は按分)
- 研修費・広告宣伝費
- その他法人運営に必要な費用
法人は経費として認められる幅が広いため、損金に計上できる項目が増え、課税所得を圧縮しやすいのが大きなメリットです。
まとめ(判断のポイント)
- 保有中のCFは赤字気味でも、元本返済の進捗と売却益で投資リターンが決まる
- 実際にはシミュレーションして判断するのがベスト
- 個人は簡単に始められるが、高額売却や所得が多い場合は法人化も検討の余地あり
- 個人・法人どちらが有利かは、課税所得や売却益、借入条件によって大きく変わる
個人か法人か、どちらが有利かは一概に言えず、所得状況や売却益、借入条件によって変わります。
給与所得など他の収入との兼ね合いも大きな判断材料です。最終的にはシミュレーションを行い、自分に合った形を選ぶことが大切です。
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